2021年度カムイチェプ・プロジェクト研究会

第3回 地元の川サケと長くつきあう工夫

2021年8月25日(水)18:30〜21:00

zoomミーティングシステムを介して開催しました。参加者22人。


有賀望さん「地元の川サケと長くつきあう工夫 その試みと成果」

あるが・のぞみさん 札幌市豊平川さけ科学館学芸員、札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表

カムイチェプ・プロジェクト研究会

みなさん、こんばんは。きょうは、札幌・豊平川で、私たちがどんなふうにサケの保全活動をやっているか、それがほかの地域のみなさんの参考になれば、という気持ちでお話しさせてもらいます。こちらの写真は、北海道新聞社のカメラマンさん、西野正史さんが撮ってくださった豊平川のサケです。ちょうどJRが通っている鉄橋のあたりがサケの産卵適地なんですけど、カメラを半分水中に沈めて、サケと列車を同時に撮ってくださいました。豊平川は、札幌の街中を流れている川ですけど、こんなふうにサケが遡上して自然産卵しています。

豊平川は、札幌の街中を流れている川ですけど、こんなふうにサケが遡上して自然産卵しています。

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きょう、話題提供のお声がけいただいたきっかけは、先日、豊平川の河川敷に、この看板が立てられたことでした。私たちは豊平川でサケの保全活動をしているわけですが、豊平川ではここ数年、工事業務を請け負った工事業者さんたちが、「地域貢献」の形で、サケの産卵環境復元に協力してくれています。今年は草野作工株式会社(江別市)という会社が業務を請け負うことになり、産卵環境復元場所の近くに、この「豊平川のサケ情報」の看板を立ててくれました。出来たてほやほやです。この看板の設置には、川を管理している国交省札幌河川事務所も協力してくれましたし、看板の中身については、私が務めている札幌市豊平川さけ科学館、それに札幌ワイルドサーモンプロジェクトが協力しました。

この看板がなぜ「きっかけ」になったかと言いますと、同じ道内でも、もし他の地域の川だったら、川辺に「サケを捕ったら密漁」「不審者を見つけたら110番」の看板が立っていることはあって、「ここにサケがいます」「みんなでサケを観察しましょう」という看板は、とても立てづらい雰囲気があるんです。なのにどうして、豊平川ではそれができるのか、お話ししてみたいと思います。

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このスライドは、その草野作工さんが今年、やっぱり「地域貢献」活動の一環として、サケ産卵場の復元工事をしてくれた現場の写真です。奥が本流、手前に小さな水路が見えます。以前、別の工事業者さんがサケの産卵場として掘削・復元してくれた場所なのですが、その後、ふたたび堆積が進んで、去年また産卵が途絶えてしまっていました。それで、同じ場所をもう一度掘り起こし、砂や泥が詰まって固まってしまった川底の砂利を軟らかくほぐしてサケが産卵できる状態に戻す工事をお願いしました。また、砂利河原に草が生えて、市民のみなさんに観察を呼びかけようにも、河川敷まで降りていけない状態だったので、草刈りをしてもらいました。

この場所には、今までも「ここでサケ産卵場をつくっています」という看板を立てていました。今回、その看板をリニューアルするにあたって、こうして環境復元工事をした場所でサケが実際に産卵している様子を多くの方に見に来てほしいですし、河川敷を散歩している人たちに「この時期にこの場所でサケの産卵が見られますよ」というのをお知らせできたらと思って、このようなデザインにしました。

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豊平川では、ほかにもう1カ所、JR鉄橋の近くでも、河川工事業者さんのボランティア、地域貢献の形で、産卵環境の復元工事が行なわれています。そちらも成果が出ているので、ご紹介したいと思います。

左の写真(2016年)で、岸辺の草刈りをしてあるあたりですが、ここにはもともと水路があって、サケが卵を産んでいました。ところが、下のグラフからお分かりのように、2014年ごろには産卵するサケがいなくなってしまいました。水路の上手に土砂が堆積して、ほとんど水が流れなくなってしまい、下流部にはサケの産卵に適した湧き水が湧いてワンド状になっているのですが、その位置も川底の砂利が泥に覆われて、サケが卵を産みづらい状況になってしまったせいだと考えられました。

それで2017年、当時河川管理工事を請け負っていた工事業者の道興建設株式会社(札幌市)さんと相談して、これも地域貢献の形で、上流の水路を復元し、ワンドに溜まった泥が流れやすくなるように重機で掘ってもらいました。するとその秋、この場所でサケの産卵は増えました。

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河川工事業者による「地域貢献」がどのような仕組みで行なわれているか、もう少し詳しくご説明します。

ふつうの河川工事は、河川管理者(豊平川の場合は国交省北海道開発局札幌河川事務所)が、計画し事業に対し、業務を工事業者に発注して、実行されます。そのさい、業務を受注した工事業者が、工事期間中に、現場に搬入した車両とか、作業員とかを無償提供する形で、現地で何らかの「地域貢献」活動をする、というものです。従来は、現場の川でのごみ拾いとか、地元の町内会のお祭りに協力する、といった形が多かったようなんですけど、近年、豊平川では、「環境改善」という形でそれに参加してくれる業者さんが増えて、豊平川では最近は毎年、「サケの産卵場改善」に取り組んでくれています。

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工事業者さんのボランティアの地域貢献活動以外にも、河川管理者の北海道開発局が本来業務としての豊平川の洪水対策を行なう際にも、サケの産卵場への配慮は進んでいます。

たとえば、河道内に木がたくさん生えて、木の根に捕捉されて土砂がどんどん溜まってしまっているような場所では、洪水時に計画流量を流しきれずに堤防からあふれてしまう危険があるので、定期的に河道内の木を伐採して、土砂を取り除いて河床を切り下げる工事が必要なのですが、そのさいにも、サケの産卵環境の保全・復元に向けた配慮が行なわれています。

具体的には、切り下げる深さを2段に分け、堤防に近い1段目では、木が再び生えにくいように(洪水後の荒れ地環境を好む)ヤナギがタネを飛ばす時期(春の増水期)には水に浸かって、タネが定着できない程度の位置まで切り下げることとしました。いっぽう川に近い2段目の切り下げは、今度はサケの産卵する時期(9月~12月)、秋は水がちょっと少なくなるんですけど、その減水期でも広い範囲でサケが卵を埋めるよう、適度な水深が保たれるくらいの深さまで掘り込みました。サケの産卵場造成のための工事ではありませんが、洪水対策工事に合わせて、河川管理者もこのような配慮をしています。

札幌ワイルドサーモンプロジェクトは、こんなふうに豊平川の河川管理者と連携しながら活動を進めていますが、ほかにも研究機関に所属するいろいろな専門家の人たちが加わって、ボランティア活動なので出来ることと出来ないことがありますけれど、この場所で一緒に調査をしたり対策を考えたりしながら、貢献してくれています。


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じゃあなぜ、札幌の豊平川では、こんな協働的な保全活動が可能なんでしょうか。

豊平川は、今でこそ都会の街の中を流れる「都市河川」ですけど、もともとはサケの上る川でした。だからこそ、かつてカムバックサーモン運動が大勢の市民を巻き込んで盛り上がったんだと思いますし、現在のサケ保全への関心の高さも、そんな札幌市民とサケとの関わりの歴史にヒントがあるんじゃないかと思います。

ちなみにこちらの写真も「道新」の西野正史さんの作品です。「夜景をバックにサケを撮りたい」とおっしゃって、夜に豊平川に通って撮影しておられました。都市河川ならではの光景だと思います。

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豊平川はもともとサケのたくさん上る川でした。1930年代から50年代にかけては、親魚を捕獲して採卵し、人工孵化稚魚を放流する増殖事業も行なわれていました。当時は、野生動物と市民との関わりというよりは、食料としてのサケを増やすために、放流事業をやっていたわけです。ところがその後、札幌市の人口がどんどん増えるにつれ、川の水質が悪化し、川の中にも治水名目の堰堤(流れを堰き止める小ダム)がいくつも造られて、1950年代から70年代にはサケが見られなくなってしまいました。その後、下水道が整備され、水質が改善したことを受け、豊平川にもう一度サケを呼び戻そうというカムバックサーモン運動が70年代後半に始まります。上のスライドのグラフは、縦棒が放流数、折れ線が遡上数ですが、この時は、豊平川にサケ稚魚を大量放流するやり方がとられ、ほどなくサケの遡上が再開しました。

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今でこそ、各地の河川でサケの市民放流が行なわれていますが、当時は法的に規制されて、国が決めた「サケ増殖河川」でしか、サケを放すことは許されていませんでした。

サケのいなくなっていた豊平川は、すでに増殖河川ではありませんでした。でも、豊平川のカムバックサーモン運動では、いろいろな立場の方たちが関わって、あちこちに働きかけた結果、「同じ石狩川支流で、豊平川の隣を流れている千歳川から借りたサケ稚魚を、試験的に放流する」という形で、当時としては例外的にサケ稚魚放流が実現しました。その3年後、サケの遡上が再び見られるようになった時には、多くの市民が川に集まって、サケの遡上を喜んだそうです。

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以来、札幌市民にとってはサケは環境保全のシンボルとなりました。川のそばのレリーフから下水のマンホールにいたるまで、サケの姿がデザインされるようになったのは、この時代からです。

サケ遡上が再開した後、1984年には「豊平川さけ科学館」がオープンします。サケ遡上が途絶えないように、当初は千歳川(の孵化場)から借りてきたサケ稚魚を放流していたんですけど、それ以降はさけ科学館が「市民孵化場」の役目を担い、自前で人工採卵・孵化させて育てた稚魚の放流を続けることになりました。

加えて、札幌市民がサケについて学ぶ施設としての役割も科学館開設の目的とされ、館内で市民の採卵実習をしたり、実際に川に上がってきたサケはもちろんのこと、そのほか水辺の生き物を対象にした観察会を開いたりしてきます。

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現在の豊平川には、毎年1000~2000尾のサケが上ってきています。豊平川ではサケ親魚の捕獲は一切していないので、遡上してきたサケたちはすべて自然産卵しています。

JR鉄橋の架かっているあたりが、産卵範囲の下流端で、そこから上流に向かって10kmくらいまでの区間で産卵が行なわれています。この地図で、赤丸がサケが産卵した地点、「産卵床」と呼びますが、その位置を示しています。まさに札幌市の街の中心部に産卵床が集中しているのが分かると思います。

豊平川でのサケの自然産卵エリアは、ちょうど豊平川扇状地の終わるあたり、「扇端部」と呼ばれる地形のところに集中しています。川の流れの勾配がこのあたりで緩やかになり、土砂が堆積して、地下水や伏流水が川底から湧き水となって出てくる位置にあたります。サケはそのような場所で産卵する習性があります。

また、アイヌ語で「泉」を意味するメムと呼ばれていた地名が、たとえば現在の札幌駅の周辺、北海道大学の構内とか、農学部付属植物園内とかにあったと記録されています。

そうした場所にはかつてメムを水源とする川が流れていて、そんなメムの川では、扇状地の河川で産卵するサケのグループより遅い時期、お正月ぐらいにさかのぼってくるサケが産卵していただろうと考えられています。

豊平川流域では、メムの川はなくなってしまったので、現在の豊平川流域のサケは、早い時期に遡上し、扇状地河川で自然再生産する「前期群」が大半を占め、湧水が混ざる場所でわずかに「後期群」が産卵しています。


さて、このようなわけで、現在の豊平川には、自然産卵で生まれる「野生サケ」と、さけ科学館が放流している人工孵化稚魚由来の「放流サケ」の両方がいます。1984年に開設して以降、さけ科学館では、千歳川の捕獲場から生きたサケ親魚を譲り受けて人工孵化を行ない、毎年約20万尾ずつのサケ稚魚放流を続けてきました。その一方、毎年1000~2000尾のサケ親魚が豊平川に遡上して、川底に自然産卵をして、その卵からもたくさんの稚魚が生まれて、海に下っています。ただ、再び豊平川に帰ってきた親魚の外見からは、野生魚なのか放流魚なのか、違いを見分けられないので、それぞれどのくらいの割合を占めているのかは、長い間、分かりませんでした。

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そこで2003年から2007年にかけて、すべての放流稚魚に標識をつけ、魚が成長した後も放流魚(標識つき)か野生魚(標識なし)かを見分けられるようにして、豊平川に帰ってきたサケ親魚の放流魚/野生魚の割合を調べてみました。その結果、豊平川に上ってくるサケ親魚全体のだいたい7割を野生魚が占めていることが分かりました。


有賀望,森田健太郎,鈴木俊哉,佐藤信洋,岡本康寿,大熊一正「大都市を流れる豊平川におけるサケ Oncorhynchus keta 野生個体群の存続可能性の評価」(日本水産学会誌、Vol. 80 (2014) No. 6 p.946-955)


サケ増殖事業の世界では、現在でも自然再生産の効率は低いと考えられていますし、一度サケがいなくなってしまった川、とりわけ豊平川のような都市河川で、いつの間にか自然産卵由来の野生サケが放流サケよりずっと多くなっていただなんて、われわれも想像していなかったので、この結果が出た時は驚きましたし、とてもすごいことだと思いました。

この結果をどうみるべきか——。せっかく豊平川で生まれ育った野生サケが増えてきているのだから、人間側も、いつまでも千歳川産の人工孵化稚魚を放流し続けるのではなく、できれば豊平川生まれの野生のサケをもっと増やしたい、と私は思ったのですが、とはいっても、市の施設(札幌市豊平川さけ科学館)の職員だけで決めるわけにもいきません。そんな時、平田さんや森田健太郎さんと相談して、「この結果をもっと大勢の人たちに知ってもらって、豊平川の野生サケを増やそう、という市民運動に結びつけられないかな」と、この「札幌ワイルドサーモン(野生サケ)プロジェクト」(SWSP)を立ち上げました。

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当時、ある人に「なんで野生魚にこだわるの?」と聞かれたことを、いまでも覚えています。「(サケの遡上を途絶えさせないためだったら)そのまま放流し続けてたらいいじゃない。野生魚を増やすだなんて大変でしょう」と……。

でも、将来の豊平川のサケのことを考えたら、いつまでも人の手を借りないとサケの戻ってこられない川ではなくて、川の中で自然の生き物として自力で再生産(世代をつなぐこと)できたほうがいい。かつて豊平川にサケを復活させたカムバックサーモン運動の次のステップにのぼりたい、というふうに思いました。2014年のことです。

SWSPの目的は「豊平川の野生サケを増やしていくこと」です。メンバーには、研究機関の人たちのほか、最初から河川管理者や自治体にも声をかけて加わってもらっています。野生魚を増やすには人工放流を減らすだけでは足りず、サケが産卵しやすい川の環境を取り戻さなければならないからです。

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SWSPがいま、具体的に何をやっているかというと……。

放流魚と野生魚を正確に見分けるために、放流魚に標識を付けています。かつてはヒレの一部を切除して目印代わりにしていましたが、今は耳石温度標識という、発眼卵の段階で固有の印を付ける方法を採用しています。

それから、豊平川さけ科学館は今までは親ザケが何匹あがってこようと毎年一定数(約20万尾)を放流してきたわけですが、それを改めました。「毎年の遡上親魚数が1000尾を下回らないように」と目標を決め、1000尾より多く帰ってきている間は「野生魚の自然再生産がうまくいっている」と判断して、放流数を減らします。もし1000尾を下回る年が5年以上続いた場合は、自然再生産がうまくいっていないと判断して、人工放流数を従来の20万尾に戻す。いわゆる順応的管理という仕組みです。

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ただ、放流数を減らすといっても、じゃあどこまで減らせばいいのか。それも議論しました。さけ科学館では、小学生などを対象に人工受精の体験学習や、市民向けのサケ稚魚放流会を長く続けています。そこで、市民が関わるこうした活動は維持しながら、これまで職員のみで行なっていた業務的な稚魚放流を止めることから始めています。現在は、これまで約20万尾ずつを放流していたのを、約8万尾まで減らしました。

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平行して、このように放流数を減らしたことで、遡上数や野生魚と放流魚の割合にどんな変化が現れるのか、反応をつかむためのモニタリング調査を継続しています。

このうち産卵床調査は、戻ってきた親サケがどこにどれくらい産卵しているか、川の中で見つけた産卵床を数えて、遡上数を推定する方法をとっています。私がさけ科学館に就職したのは1999年でしたが、この調査活動はそれ以前から続いていて、今後も行なっていきます。

また、SWSPを結成してから新たに始めたモニタリングに、野生魚がちゃんと再生産できているかを確認するための捕獲調査があります。春先、目の細かいネットを一晩中流れの中に仕掛けて、豊平川で生まれた野生稚魚が、いつどれくらい海に下っているかを追跡しています。

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グラフでお示ししているのは、モニタリング調査の結果です。SWSPは、放流数を減らしつつ、毎年の回帰数を1000〜2000尾の間で維持し、かつ野生魚の割合を増やすことを目指しています。放流数を減らすにあたり、(放流事業の主体である)札幌市と協議して了解を得ました。豊平川が(「北海道さけ・ます人工ふ化放流計画」が指定する)サケ増殖河川ではないから放流数削減が認められた、という面はあると思います。(海面)漁業者を抱える増殖河川では、たとえ野生魚を増やすことは認められたとしても、放流数を減らすことはとても認められにくいことだと思います。

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こんな札幌ワイルドサーモンプロジェクトですが、ゴールをどこに置くかは、まだ模索している段階です。放流ゼロをゴールにするのか、放流は続けながら野生サケを増やすことを目指すのか……。

活動を続けていくには、河川管理者や河川工事業者さん、自治体行政、また活動資金を提供くださっている企業のみなさんの協力が必要ですし、こうした協力者のみなさんにとっても、豊平川で野生サケを保全することが目標になるようにしていくことが大事だと思っています。すでに河川管理者や工事業者さんからは、「質の高い河川環境管理を通して地域に貢献できることにメリットを感じている」と評価してもらっています。今後もそういう関係を築いていきたいと思います。

そしてもちろん、この活動に対する市民の認知度を上げることも必要です。1980年代のカムバックサーモン運動は、とても大きな運動でした。それに比べると、SWSPは発足8年目ですけど、認知度はまだ全然足りません。ただ、こうした活動は決して一過性のものではないので、認知度をどこまで追求すべきかは分からないんですけど……。

これだけ大きな都市で、野生の生き物たちが自然に再生産していることは、札幌市民にとって誇りだと思いますし、みんなにそれを共感してもらうことで、この活動が続けられるかな、と思っています。

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最後に、「有賀さんの個人的なモチベーションを教えて」と平田さんに聞かれたので、少し考えてみました。

私はさけ科学館の職員として豊平川のサケに関わるなかで、「野生のサケを保全したい」と思うようになりました。学芸員として環境教育に携わってきたわけですけど、「このやり方で本当に将来のサケにとってプラスになっているかな?」と疑問を持つようになってきたんです。というのも、もともと人工増殖のために発達してきたサケ稚魚放流のやり方は、必ずしも環境保全につながるわけではありません。にもかかわらず、「環境教育の施設」が放流を続けていることに、今でもジレンマを感じています。せっかくなら、札幌の子どもたちには将来、「自分の故郷を流れる豊平川で野生サケが自然再生産しているのはすごいことだ」と思ってほしい。放流を続けるより、そっちに方向転換したほうがいいんじゃないか、と思うようになりました。

もうひとつ、さっきもお話ししたように、私が就職する以前から、さけ科学館は豊平川でサケの産卵床調査をずっと継続してきています。「地道な科学的データの積み上げがあるからこそ、豊平川のサケ保全活動がいま実現しているのでは?」と平田さんに評価してもらった点ですけど、地域の小さな博物館施設ではありますが、こうしたデータを蓄積し続けて、地域=札幌のみなさんに還元することが、自分たちの使命だと思っています。