2021年度カムイチェプ・プロジェクト研究会
第2回 ラポロアイヌネイション浦幌十勝川サケ捕獲権確認請求裁判に注目!
2021年6月30日(水)18:30〜21:00
zoomミーティングシステムを介して開催しました。参加者31人。
報告 平田剛士 フリーランス記者、カムイチェプ・プロジェクト研究会コーディネーター
再び失礼します。カムイチェプ・プロジェクト研究会コーディネーターの平田剛士です。本業はフリーライターで、『週刊金曜日』という雑誌に、先住民族アイヌと、コロナイザー=入植者としての和人集団との関係についてのルポ記事を書いたりしています。一昨年、2019年の春に、この雑誌に「サケと人をめぐる新しい物語」というタイトルの短期連載をやりました。このカムイチェプ・プロジェクト研究会のアイディアもそのころから漠然と頭に浮かんで、小泉さんや森田さん有賀さん向井さんたちと具体的な相談を重ねながら、だんだん形になってきたと思います。
さて、先住民族アイヌとカムイチェプ、サケの関係を議論する上で、もっか最もホットな話題が、このラポロアイヌネイションの浦幌十勝川サケ捕獲権確認請求裁判です。いわゆる先住権をめぐる最先端の司法手続きであり、非常にチャレンジング、かつ、アイヌ民族にはむろんのこと、とりわけ北海道に住んでいる和人にとってきわめて当事者性の高いテーマが争われていると思います。
原告のラポロアイヌネイションのみなさんとは、じつは裁判が始まる何年も前からおつきあいがありまして、このカムイチェプ・プロジェクト研究会にも当初から前会長の長根弘喜さんと弁護団の市川守弘さんが参加くださっています。ご覧になった方もおられるかもしれませんが、昨年9月にスピンオフ的に開催されました公開ウェブセミナー「アイヌ民族とサケ漁の権利」では、この裁判について長根さんがスピーチしてくださいました。
その時は裁判所に提訴した直後でしたが、去年10月から口頭弁論が始まり、ちょうど今月17日に第4回口頭弁論が終わったところです。札幌地裁はいま、コロナの影響で傍聴者席がふだんの半分に絞られているものですから、当日のくじ引きで傍聴できるかどうかが決まるのですけど、おかげで初回を除いてこれまで当選して傍聴しています。小泉さんや山田伸一さんはじめ、同じように裁判の傍聴にお出かけの方は少なくありませんが、きょうは僭越ながら私から、これまでの裁判の経過をできるだけ分かりやすくお伝えしようと準備してきました。どうぞおつきあいください。
お手元に「読本」をお持ちの方は、4ページに「十勝川とサケ」の解説がありますので、どうぞごらんください。
この裁判の舞台は、十勝川です。北海道の島の東側、広大な十勝平野を形づくっている大河川です。中心地の帯広市は十勝川の中流部に建設された都市で、人口16万5000人くらい。その帯広からクルマで1時間半くらい走った太平洋岸、十勝川河口の東側に浦幌町があります。こちらは人口4500人、農業と水産業の町です。
十勝川は、最下流部に三角州が発達して二股に分かれているのが特徴で、二股のうち東側が浦幌十勝川、この裁判の舞台です。
去年9月20日に、ラポロのみなさんがこの場所でアシㇼチェプノミ、海から故郷の川に帰ってきた新しいサケを迎える儀式を開催されましたが、儀式のために、北海道知事の特別採捕許可を受けて刺し網を仕掛けられたのが、今回の訴訟で扱われるエリアでした。奥のほうに見える水平線は、太平洋です。5㎏くらいのオスが捕れました。
さて、これから裁判資料をごらんいただきながらお話を進めますが、原告、つまりラポロのみなさんの訴状や準備書面、また口頭弁論の後に原告団が開いている記者会見のようすなどは、こちらNGO、北大開示文書研究会のホームページで公開されていますので、ぜひご参照いただければと思います。
それから、これからご覧いただくスライド、50枚くらいになってしまったのですが、ページ番号を振りました。訴状とか準備書面とか、原告と被告の双方が裁判所に提出した文書から抜粋したテキストを、これからどんどんお見せします。きっと途中で、みなさまのご関心を引く箇所がでてくるのではないかと思います。私の発表の後、みんなでディスカッションするときにまた確認したくなることもあるでしょうから、「あれ?」と思うことが出てきたら、ページ番号をメモしておいてください。あとでまたそこに戻って議論できると思います。なお、このスライドは、後ほど研究会のサイトにアップする予定です。
◎概要
◎訴状抜粋
◎裁判の経過
◎意見陳述書 第2回口頭弁論 2020年12月17日 ラポロアイヌネイション名誉会長 差間正樹
◎意見陳述書 第3回口頭弁論 2021年3月4日 ラポロアイヌネイション会長 長根弘喜
ここまで原告側の主張を見てきました。今度は被告側、国と北海道の主張を見ることにします。
これまで、原告側が訴状と準備書面2通、被告からは準備書面3通が札幌地裁に提出済みです。順番はこうなっていて、往復書簡、という感じです。
さきほど原告側の主張をちょっと詳しく読んだので、被告の主張も少し詳しく読みますね。この裁判で、被告は「アイヌの先住権は認められない」と明言しているわけですが、その理由が書かれています。これはある意味、現在の日本政府がアイヌ民族をどうみているかの公式見解そのものです。
長くなりましたが、いかがだったでしょう? 「日本政府がアイヌ民族をどうみているかの公式見解そのもの」と申し上げた意味がお分かりいただけたかと思います。
さて、そのうえで今度は、この裁判の争点を整理してみました。被告、原告が裁判所に提出する準備書面は、往復書簡のようだと申しましたが、主張と反論が交互に交わされています。分かりやすいように、原告をブルー、被告をイエローにしています。スライドごとに左右が入れ替わるので、ちょっとご注意ください。
はい、ここまでが往復書簡、準備書面による論争のあらましでした。今月17日の口頭弁論では、ここまでのやりとりがありました。閉廷後に近くの会場で原告側の記者会見・説明会が開かれましたが、今後の展望を、原告弁護団の市川守弘弁護士は、こんなふうに語っていました。
次回と、その次の期日は決まっています。今度は原告側がボリューミーな準備書面を用意してくる番です。またみなさんにご報告できればと思います。
ヒラタからは以上です。ご静聴をありがとうございました。