東滝川コウモリねぐらモニタリング 2012-2018
平田剛士 たきかわ環境フォーラム代表
ようこそお集まりくださいました。いつもたきかわ環境フォーラムのエコカフェにおこしいただき、まことにありがとう存じます。私は当フォーラム代表の平田剛士です。どうぞよろしくお願いします。
きょうは3月10日、あしたは11日です。開会に先だち、いまから8年前、2011年3月11日に発生した東日本大震災で亡くなった15,895人のために、黙祷を捧げたいと思います。
ありがとうございました。
さて、本日のエコカフェは年に一度の「滝川コウモリ観察調査報告会」です。
きょうはまず、私と、フォーラム運営委員で滝川高校の生物の先生である長澤秀治さんから、20分ずつをめどに今季の調査成果をご報告します。そのあと、福井さんに「コウモリの移動生態学」と題するご講演をいただくというプログラムで進めたいと存じます。どうぞ最後までお楽しみください。
2018年度のたきかわ環境フォーラムは、ほっくー基金北海道生物多様性保全助成プログラムの支援を受けてコウモリ調査活動を実施しました。本日のエコカフェもこの助成金を活用して開催しています。ほっくー基金さんに深く御礼を申し上げます。
さて、当フォーラムは、コウモリ写真家の中島宏章さんにエコカフェに登場してもらったのをきっかけに、2011年にコウモリ探知機、バットディテクターを初めて購入しました。これがその「SSF BAT 2」ですが、翌年、東滝川のとある農機具庫がカグヤコウモリたちの繁殖ねぐらになっていることが分かって以来、毎年4月〜10月のシーズン中は毎週末、フル活用するようになりました。3年前、マイクに雨を当てて故障させてしまったことがありましたが、さいわい修理がきいて、調子は上々です。途中から同じ機械をもう1台購入し、オサラッペ・コウモリ研究所の出羽寛さんからこの「Mini3」という機械も、もう何年も借りっぱなしにして、フル活用して観察しています。
これが、私たちがもう7シーズンにわたって同じ場所でモニターしているカグヤコウモリです。翼を広げても大人の手のひらくらいにしかならない小型コウモリです。この農機具庫には、6月7月のピーク時には300頭〜500頭くらい集結する、と私たちはみています。
きょうのエコカフェのチラシに「コウモリは──わらう」とコピーをつけたのですが、この写真……笑ってますよね?
ここ数シーズン、いろいろ工夫を重ねて、やっと狙って飛翔写真を撮れるようになってきたんですが、ご覧になって、なにかお気づきではありませんか。
みんな大口を開けて飛んでます。飛びながら声を出しているせいだと思います。コウモリはいつも大きな声を出して、まるで歌いながら飛んでいるようです。
ただしコウモリの声は人間の聴覚では聞きとれません。いわゆる超音波、1万2000〜15万hzという高周波だからです。それを人間の耳に聞こえるように変換してくれる装置が、バットディテクターなのです。
たきかわ環境フォーラムが使用しているのは、ヘテロダイン式といって、機械が鳴らす基準音とコウモリ音声のピッチ差を検出する仕組みのバットディテクターですが、これを通すと、カグヤコウモリが飛んで行く時の声は、こんなふうに聞こえます。(音声再生)
さて、カグヤコウモリは、夕暮れ時にいっせいにねぐらから飛び出していきます。「ねぐら立ち」と呼んでいますが、このグラフは、バットディテクターの音声を聞きつつ、農機具庫から飛び出していくのを1頭ずつ目視でカウントして集計したものです。ところがですね……。
環境フォーラムが結成されたのは2004年で、当時の私は39歳だったのですが、2012年にコウモリの観察を始めて、さらに数年たち、50歳を越しましたら急に視力が衰えてきまして。とくに暗がりでモノが見分けられなくなり、薄暮の時間帯にコウモリを数えるどころではなくなってきました。
せっかく毎週土曜、晩飯を2時間遅らせて現場に通っているのに、数が変化し始めても、ほんとにコウモリの数が変わったのか、自分の視力低下のせいなのか、それが分からなくなっては、データになりません。
これはいかん、ということで、観察者の体調に左右されない測定方法をちょっと考えました。一昨年くらいから試し始めたのが、バットディテクターとICレコーダのセットを複数並べて使うマルチレコーディング法です。
ねぐらの開口部を挟んで、マイクを数メートル離してセットします。これらの上空を、建物の中から外に向けてコウモリが飛んで行くと、まず内側バットディテクターに音が入り、続いて外側バットディテクターに音が入る、と思いませんか?
逆にいうと、これら両方のマイクの録音のタイムをシンクロさせてから聞き比べて、まず内側が鳴り、続いて外側が鳴ったら、この時1頭のコウモリが外に飛んでいった、と判断できるかもしれないわけです。
こうして録音したデータをデジタル化するとパソコンで簡単に処理できるようになります。2つ並べたトラックのうち、上が外側においたセット、下が内側のセットです。ちょっと聞いてみてください。(音声再生)
コウモリたちが声を出して飛んでいる限り、たとえ観察者が加齢しても、夕方じゃなく真っ暗な深夜でまったく見えない状態でも、この方法なら、コウモリの飛んで行った方向や行き来の回数をずっと一定の精度でチェックできる可能性があります。
このグラフは、その方法で一晩中、このねぐらの出入り口でコウモリ音声をレコーディングして、コウモリの出入りをチェックしてみたものです。赤が出発回数、青が到着回数を示しています。
季節が進むにつれ、飛翔の回数が増え、活動が活発化する時間帯もだんだん変化しているようにみえます。カウントがこのように変化する傾向は、北海道滝川高校科学部や理数科の生徒さんたちと一緒にやったねぐら立ちの目視モニタリングや、森林総研の平川浩文さんの熱検知装置「ヨイショット」による無人モニタリングでも現れていて、同じ現象を違う観測方法で捉えることができたと思います。
もうひとつ、これは去年から試行錯誤し始めたばかりで実用になるかどうか分からないのですが、写真撮影による個体識別調査の可能性についてお話しします。
たきかわ環境フォーラムは、オサラッペ・コウモリ研究所の出羽さんや清水省吾さん、村山美波さん、また東海大学の河合久仁子さんに指導してもらい、三井ひとみさんたちにもお手伝いいただきながら、13年から17年までの間に、この農機具庫周辺で計331頭のカグヤコウモリに腕輪式の標識を装着して放獣しています。
何回も捕獲を繰り返すうち、このうち12頭が再捕獲され、再々捕獲、つまり3回繰り返してつかまったコウモリも1頭いました。このデータは集団サイズの推計とか、コウモリの寿命を調べたりするのにとても重要な材料になるのですが、カスミ網を仕掛けてコウモリを待ち受けるのは、愉しくもありながら、出羽さんたちには旭川から出張してもらって、けっこう大掛かりで重労働、何より動物にかかる負担が小さくありません。このねぐらに集まるコウモリは妊婦集団ですから、なるべく静かに見守って、安心して出産・子育てしてほしい、という願いもあるわけです。
そんなとき、中島宏章さんの作品に刺激を受けてコウモリ写真に挑戦していましたら、たまたまうまく撮影できた中に、翼に銀色の標識をつけているのがいました。番号までは読み取れませんが、標識の有無ははっきり分かります。
コウモリの飛行ルートに「ヨイショット」を仕掛けてストロボを自動発光させるシステムにすると、飛び出していくコウモリをけっこう確実に撮影できるようにもなりました。ピカッと光るのでコウモリを驚かせることにはなりますが、カスミ網で絡めとるよりは負担はだいぶ軽いと思います。
これまで標識した331頭がどれくらいの頻度で写るか。これは昨年、ねぐら立ち時間帯に写ったコウモリの標識率です。この数字がどういう意味を持つのか、持たないのか……。
ともあれ、この古い農機具庫でコウモリたちがこれからどうなっていくのか。まわりの環境もふくめ、できるだけ長くモニタリングしていきたいと思います。興味ある方はぜひいちどご一緒ください。
私からの報告は以上です。どうもありがとうございました。
2019年3月10日、たきかわ環境フォーラム主催「エコカフェ/滝川コウモリ観察調査報告会2019」報告予稿
2019年3月11日にウェブサイトにアップしました
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