江部乙に吹く風はだれのもの?

江部乙まちづくり研究会
平成25年度セミナー〈第2回〉風力発電と地域振興を考える
2014年2月18日14:00〜16:00
農村環境改善センター(滝川市江部乙町東11丁目13-1)

講演II 江部乙に吹く風はだれのもの?(講演予稿)

平田剛士 フリーランス記者

 

 みなさん、こんにちは。きょうはこのように大勢のみなさんの前でお話しする機会を与えてくださり、主催者の「江部乙まちづくり研究会」のみなさまに深く感謝申し上げます。

 簡単に自己紹介をしますと、私は北陸育ちでして、北海道に来たのは1983年です。はじめ札幌に住んでいて、こちら滝川に住んで18年ほどになります。それまでほとんど滝川のことを存じませんでしたが、2003年ごろ「たきかわ環境フォーラム」という新しいグループが設立されることになり、お誘いいただいたのをきっかけに、こちらの中島和治さんをはじめとする滝川のナチュラリストの方々とお知り合いになりまして、アウトドア派のみなさんにぐいぐい引っぱられる形で滝川の美しい自然の中にでかけるようになって、すっかりここが気に入ってしまいました。こちらはその「たきかわ環境フォーラム」のみんなで制作した「丸加高原ハンディ図鑑」ですが、完成から10年近く経ちまして、そろそろ新しい版が欲しいねと、先日も中島さんがおっしゃっていたので、きっと今年の年末あたりには出来てるんじゃないかな、と思います。

 さて、あちこち雑多な文章を書き散らしている私ですが、なかでもおもに環境問題に関心をもって取材と報道の活動をしています。ひとくちに環境問題と言っても間口は非常に広いわけですけれど、とりわけ2011年3月11日以降、つまり東日本大震災と、それに引き続いて東京電力福島第一原子力発電所が起こした放射能拡散事故の後は、やっぱりこのことが最大のテーマになっています。昨年は3月と8月にこの「週刊金曜日」という雑誌で全5回の連載記事、全10ページの特集記事を担当して、放射能が東北の豊かな自然環境をどれだけ痛めつけ続けているのか、福島を中心にあちこち歩き回ってルポ記事を書きました。

 きょうはその詳しいご報告もしたいところですが、それだけで時間を使い果たしてしまいそうなので、写真と地図を何枚かだけ、ご覧いただきましょうか。

 これは原発事故から1年半ほど経った2012年暮れ、福島県川俣町というところで撮影した写真です。放射能が町を襲い、強制避難でだれも住めなくなりました。もとはきっと、この江部乙と同じく美しい農村だったでしょう。それがどうでしょう? 畑はたった2シーズン耕作できなかっただけでセイタカアワダチソウにすっかり覆われて見る影もなくなってしまいました。もうこの風景を見るだけで、原発がいかに環境破壊的で人間の暮らしをぶち壊してしまうかということがお分かりいただけると思います。

 ご存じのように、北海道には北海道電力の泊発電所の3基の原発があります。また青森県の下北半島に大間原発が建設されています。江部乙から泊村まではおよそ120kmです。原発の問題は決してヒトゴトではありません。

 さて、私は東日本大震災と福島第一原発事故があっていっそう、風力発電などの自然エネルギーのことを真剣に考えるようになりました。

 震災前年、日本社会の原発依存率(原発発電量/全発電量)は28.6%でした。いま国内48基の商業用原子炉が全部止まっていて、依存率はゼロです。消費者の節電のおかげもあって、大規模な停電はいまのところ回避されています。

 ただ、電気料金は上昇中です。北海道電力の場合だと、1986年以降、ずっと値下げが続いてきたのが、昨年9月、「泊発電所の長期停止に伴う火力燃料費の増加」を理由に27年ぶりに値上げされました。値上げ幅は7.73%で、モデル家庭の場合、月額313円の値上げだと計算されています。これとは別に「燃料費調整」というのもあり、石炭/重油価格が値上がりしたからという理由で、この1月分に比べて2月分の電気代は16円高い額を請求されます。

 また、これまで5%だった消費税が4月から8%に変わりますので、この分も月々の電気代に加算されて、ますます「電気代が高い!」という気分になってきます。
 ちなみに我が家は、対抗策というと違うかも知れませんが、原発事故の直後、節電しようと思って契約アンペアを下げました。10アンペア下げると、だいたい300円くらい安くなります。ただ、電気オーブンと洗濯機を一緒に使おうとすると、ブレーカーが落ちて真っ暗になってしまうようになりました。そんなわけで、うちでは3年前からグラタン料理を作っていません。

 電気料金やガソリン、灯油の値上げは、われわれ庶民にとって非常に厳しいものです。そこを衝いて「だから原発を早く再稼働すべきなんです」と言い続けているのが現在の安倍晋三政権でしょう。日本の震災とは無関係に、国際的な政情不安から原油価格が高止まりして実際に電気料金がじわじわ上がっているいま、何だか説得力を持って聞こえてしまうのです。

 しかし、福島の惨状を見るまでもなく「原発を動かせばすべて解決」なんてありえません。

 石炭や石油など、有限の、しかも地球上に偏在している化石燃料が今後安くなるということはもう期待できないでしょう。それに、かつての薪炭から石炭、石油、さらに原子力へと、地下資源に頼ってのいわゆるエネルギー革命は人間社会の発展に大きく寄与し、爆発的な人口増加を実現しましたが、いっぽうで取り返しのつかないような環境破壊を招いたのはご存じのとおりです。最悪の環境破壊は戦争ですが、いまも続くアラブ世界と西欧世界の対立の構図は、宗教間のいさかいに見えて、じつは地域資源の奪い合いにほかならない、という見方も出来ると思います。

 北海道もまさにそうです。空知地方をはじめとする石炭産業が北海道「開拓」時代の基幹産業だったことはみなさまのご承知のとおりですが、それは中央政府・中央企業による国策でした。アイヌモシリの豊かな資源に目を付け、屯田兵という軍事力で一方的に植民地化し、掘れるだけ掘ったら「ハイ、閉山」。真っ黒になって働いていた何十万もの人たちが放り出されました。苦い思い出を持たれている方も大勢おられると思います。

 

 こんなふうに考えてくると、石油や石炭、それにウランのように、豊富にある場所と全く見つからない地域がはっきり分かれているような地下資源は、どうも諸悪の根源ではないかと思えてきます。もちろんこういう偏りがあるからこそ、「あるところ」から「ないところ」へ資源を流すことでビジネスが生まれるわけですけれど、それは石油企業とか電力会社とか、それで巨万の富を得てきた資本家の論理であって、そんな会社の株主でもない私たちまでそれに従う必要はこれっぽっちもありません。

 じゃあ、地域に住んでいる私たちはどんな道が選べるでしょうか? 実のところ、選べないんですよね。電気を買うには、北海道電力株式会社と契約して売ってもらう以外、選択肢がない。電気料金の値上げに抗議して、もうお前のところから買わないで別のところから買うワ、ということが出来ません。おコメやリンゴだったら、いちばん安いのを選ぶ、高いけどもっと美味しいのを選ぶ、無農薬のを選ぶ、地元の選ぶ、名産地のを選ぶ、いろいろ出来ます。それが、電気は出来ない。おかしいですよね。

 じゃあどうするか。ひとついい方法があります。買うのはもうやめて、自分ちで作るのです。家庭菜園ならぬ家庭発電です。

 きょうは農家の方も多いかと思うのですが、 中標津で三友牧場を営んでおられる三友盛行さんのことをお聞きになったことはありませんか。「マイペース酪農」というのを自ら実践して、同業者も消費者も、たくさんファンを獲得している酪農家さんです。何がマイペースかというと、農水省や農協の言いなりになってない、というところです。

 すでに耳にタコができていると思いますが、国はずっと「日本の農家も国際競争力をつけなければならない」といい続けています。酪農の場合、規模を拡大してコスト単価を下げ、製品単価もギリギリに抑えるべきだ、という戦略です。大量生産のために頭数を増やし、ミルクの栄養価を高めるのに輸入穀物を大量に注ぎ込むやり方。牛舎も非常に管理されて、放牧どころか、牛をほとんど一生、外に出さないで飼うところもあるようです。この近くにもメガファームと呼ばれる超大規模酪農家さんがおられると思います。

 かたやマイペース酪農は、せいぜい数十頭の規模で、輸入穀物に頼らず、自前の畑で放牧と乾草ですべてまかない、乳量もそこそこ、というやり方で、たいてい少人数の家族経営です。三友さんによれば、そんなやり方でも家族が楽に食べていけるだけの収益はちゃんとあがるというのです。何より、国や農協やコンサルタントの言うがままではなく、自分で知恵を絞って自由に仕事できるというところが、非常にステキだなと思わされました。

 なぜこの話をしたかというと、もし自分ちで自分ちの使う分を発電できたら、さっきいった電力会社の支配から自由になれると言いたかったからです。たとえば、泊原発のことを「何だかなあ」とモヤモヤ思い悩みながら、いっぽうで同じ電力会社に毎月料金を支払い続けざるを得ないなんて、不健全じゃありませんか。

 さて、いよいよ本題に進みます。きょう私がお招きいただいたきっかけ、「風力発電と地域振興を考える」というきょうの自主セミナーを江部乙のみなさんが企画されたきっかけは、去年の秋、丸加高原に高さ60mの観測ポールが立てられたことでした。

 これがその写真です。先週、中島さんに教えていただいて現地を見にいってきました。位置はここ。「ルネサンスの森」という看板のすぐそばで、馬の背の上の見晴らしのいい場所でした。

 ポールを立てたのはユーラスエナジーホールディングスという会社です。東京・虎ノ門に本社があり、豊田通商株式会社が60%、東京電力株式会社が40%を出資しています。母体はトーメンという総合商社で、苫前に初めて「苫前グリーンヒルウインドパーク」を建設したときはトーメンパワーという社名でした。日本最大手の風力発電事業者といっていいでしょう。北海道だけ見ても稚内、浜頓別、遠別、苫前、伊達、江差、白糠(建設中)、豊頃(建設中)と各地で大規模な風力発電所建設を手掛けています。

ユーラスエナジーホールディングス
事業内容 風力および太陽光発電事業
本社所在地 〒105-0001 東京都港区虎ノ門四丁目3番13号 ヒューリック神谷町ビル7階
設立年月日 2001年11月1日
株主 豊田通商株式会社 60% / 東京電力株式会社 40%
資本金 181億9,920万円
従業員数 211名

 滝川市がどういう誘致活動をしたのか詳しいことは存じませんが、昨年(2013年)9月の定例市議会で前田康吉市長はこんなふうに見通しを答弁しています。


「経済性に合う風況結果が得られた場合、事業者は環境アセスメント等、風力発電事業の開発に着手をし、北海道電力株式会社の接続環境が整えば、8年後をめどに風力発電事業が開始される予定です」(平成25年第3回定例会滝川市議会会議録)



 ところが年末でしたか、「江部乙丘陵地のファンクラブ」の中島和治さんや東元勝己さんにお目にかかったおり、お二人は丸加高原の自然の魅力を知り尽くしておられる方たちですが、この風力発電計画に非常に懸念を抱いていらっしゃいました。つまり、これはひどい環境破壊、景観の破壊ではないか、ということです。

 現在の発電用風車はとても大型です。出力1000キロワット超のいわゆるメガワット級だと支柱は高さ約60〜80mになります。そのてっぺんに長さ30〜40mの羽根が取り付けられているので、高さはだいたい15〜30階建てのビルに相当します。ちなみに滝川市役所ビルは11階建てで、高さ52m。札幌駅のJRタワーは38階建てで173mだそうです。丸加高原にこんな巨大な風車が並んで建てば、ご心配のように景色はすっかり変わってしまうでしょう。

 野鳥ファンのみなさんも大いにご心配でしょう。「バードストライク」といって、飛んでいる鳥が風車の回転翼に巻き込まれてしまう事故が避けられないからです。回転翼の長さは30〜40mもあります。風が吹いている間、風車は毎分6回転から10回転します。計算すると、翼の先端部分の移動速度はだいたい秒速40mといったところでしょうか。時速に換算すると140〜150km/hくらいです。

 この表は、白木彩子さんの最新報告から引用しました。ちゃんとしたモニタリング(定期的な見回り調査)はほとんど行なわれていないので、数自体はあまり参考になりませんけれど、タカ類を中心にいろんな種類が被害に遭っていることが分かります。北海道にはいま、284基の風力発電風車が建っています(新エネルギー・産業技術総合開発機構調べ)。場所はだいたい海沿いなので、海沿いに生息する鳥類が被害を受けています。ここ江部乙は内陸ですから、もし風車が建ったら、もっと違った種類が影響を受ける可能性があります。とりわけ丸加高原の森は40種以上が生息する野鳥の宝庫です。

分類 種名 確認件数   分類 種名 確認件数
タカ類 オジロワシ 32   カラス類 ハシボソガラス 1
  オオワシ 1     ハシブトガラス 5
  トビ 10     種不明カラス類 9
  ノスリ 4     ミヤマカケス 1
  ハイタカ 2   小鳥類 アオジ 1
カモメ類 オオセグロカモメ 14     ホオジロ 1
  ウミネコ 1     クロツグミ 1
  セグロカモメ 2     ムクドリ 1
  種不明カモメ類 11     イワツバメ 1
ウミスズメ類 ハシブトウミスズメ 2     スズメ目 6
  ウトウ 1   ハト類 キジバト 1
  ウミスズメ 1     116
カモ類 クロガモ 1        
  カルガモ 1        
  種不明カモ類 3        
  種不明アイサ類 1        

北海道における2004年2月〜2012年8月末の風車衝突事故確認鳥類種と確認件数。白木彩子「風力発電用風車への衝突事故とその回避」、樋口広芳編『日本タカ学 生態と保全』(2013、東京大学出版会)から引用。

 

科名 種名
キツツキ科 アカゲラ、コゲラ
アトリ科 イカル、ウソ、マヒワ、カワラヒワ、ベニマシコ
ウグイス科 ウグイス、センダイムシクイ
エナガ科 エナガ
タカ科 オオタカ、ノスリ
ヒタキ科 オオルリ、キビタキ、コサメビタキ、コルリ、ノビタキ
カラス科 カケス
レンジャク科 キレンジャク
ツグミ科 クロツグミ、アカハラ
ゴジュウカラ科 ゴジュウカラ
シジュウカラ科 シジュウカラ、ハシブトガラ、ヒガラ
セキレイ科 ビンズイ、ハクセキレイ、キセキレイ
ホオジロ科 アオジ、ホオジロ
シギ科 オオジシギ
カッコウ科 カッコウ、ツツドリ
ハト科 キジバト
ムクドリ科 コムクドリ、ムクドリ
スズメ科 スズメ、ニュウナイスズメ
ヒバリ科 ヒバリ
ヒヨドリ科 ヒヨドリ
モズ科 モズ
41種

丸加高原に生息する主な野鳥(たきかわ環境フォーラム「丸加高原自然観察の森ハンディ図鑑」から)

 ただ、大型風車の建設計画に対して地元のみなさんが違和感をお感じになる本当の理由は、もっと別なところにある気がします。それは、いったい何のためにこれを建てるのか、肝心の地元に全然説明されていない、ということです。

 さきほど東日本大震災と東京電力福島第一原発事故のことをお話ししました。福島の現状をみるにつけ、原子力発電とできるだけ早く決別することが重要だと思います。でも、たとえば江部乙に風車を建てることがこうした原発問題の解決につながるのかどうか、まったく説明されていません。それどころか、まさにきょうのセミナーのテーマですが、これがどう地域振興につながるのかさえ、具体的には何も語られていないのではないでしょうか。

 いったい地域振興とはなんでしょう? 東京から大企業を誘致することでしょうか? 発電も送電も売電も中央企業に支配されたうえ、地場産≠フ電気なのに高いお金──再生エネルギー固定価格買取制度のおかげで割り増しになっています──で買い戻させられるだけだったら、これは地域振興とは言えない気がします。

 風・光・流水・温泉・バイオマスなどを資源とする自然エネルギーは、その場所の風土そのものです。そして現在は、風力発電にせよ太陽光発電にせよ小水力発電にせよ、こんな身のまわりの自然エネルギーを効率よく電気に変換するための新しい技術やユニットが開発されています。それを活用して「地域振興」をするんだったら、まずは地元の幸福を最優先すべきだと私は思います。具体的に言うと、仮に発電を試みるとしたら、売電収入を目的とする大手企業の商用大型発電所を誘致して「おこぼれ」を期待するのではなく、まずは地域で自分たちが自家消費する電気を作ることから始めるべきではないでしょうか。その主体は自分たち住民であるべきです。

 すると、営利企業とは全く別の価値観でものごとを進めることができると思います。

  住民主体 営利企業
目的 地産地消、エネルギー自治 おかねもうけ
規模 収支とんとん 適地で大規模化
環境 持続可能性重視 二の次
住民関与
住民連携
地元への責任感

住民とエネルギー企業の価値観の違い

 

 自然エネルギー発電はお日様まかせ風まかせの部分がありますから、凸凹が出来るのは仕方ありません。風車の場合、自然環境を優先することになれば、バードストライクを防ぐために、たとえば春と秋の渡り鳥の季節は風車の夜間の運転を止めるとか、そういう運用の方法も出てくるでしょう。営利企業の論理だとそれは「デメリット」でしかありませんが、住民主体だったら環境を壊してまで発電すべきでない、という価値観が優先されます。

 さいわい、凸凹を解消する技術が急進展しています。各地の自然エネルギー発電所同士、また蓄電池同士を結んで相互に凸凹を補完し合うための「スマートグリッド」という技術もすごく進展しています。既存の電力会社に接続するのはこのステップで、それは売電収入を得るためというより、地元の自然エネルギー発電所だけでは賄えない分を系統電力から補うことが主目的です。こうなると、変動調整能力に欠ける原発の出番はもはやなくなります。つまり、こういう考え方で自然エネルギーの普及を図ったら、脱原発につながっていく可能性は高いと思います。

 けれど、たとえそうだとしても、「果たしてふつうの住民にそんなことが始められるのか」という疑問が浮かぶと思います。確かにこれを実現するにはそれなりの知識も技術もお金も必要です。「とてもムリ。専門家に丸投げしちゃおう」というふうになって、いつの間にかメガ風車導入自体が目的に変わってしまったのが、たぶん今回のユーラス社の丸加高原風況調査なのでしょう。

 でも案ずるより産むが易しだとも思います。巨大風車を建てるには何億円も必要ですが、家庭菜園ならぬ家庭発電ならそれほどの資金は不要ですし、新たに森を開いて工事用道路を作ることも、送電線を引く必要もありません。もし土地に余裕がある方なら地代さえかけずに太陽光パネルや小型風車を設置したり、バイオマス発電機を導入したりできます。手始めに、地元の工務店さんと電気店さんと金融機関さんを交えて、みなさんで江部乙ならではのプランをつくってみてはどうでしょう。これはかなり楽しそうです。

 じつは前例がいくつかあります。

ファンド名 場所 出資額 出資者数
南信州おひさまファンド 長野県飯田市 1億4150万円 230人
備前みどりのエネルギーファンド 岡山県備前市 1億9000万円 396人
温暖化防止おひさまファンド 長野県南信州地域、岡山県備前岡山地域、北海道石狩市 3億8900万円 660人
おひさまファンド2009 長野県南信州地域 7520万円 145人
信州・結いの国おひさまファンド 長野県ほか 8100万円 103人
立山アルプス小水力発電事業 富山県小早月川 7億8100万円 536人
信州・結いの国おひさまファンド2 長野県ほか 8100万円 136人
  合計 21億8300万円 2206人

市民出資による地域エネルギー事業の実施(環境エネルギー政策研究所編『自然エネルギー白書2013』2013年、七つ森書館)

 

 篤志家を募って一人100万円くらいずつ出資してもらって基金を立ち上げ、基金のお金で太陽光パネルを購入し、住民に貸し出して住宅の屋根とか休耕地とかで発電する、というパターンで事業が軌道に乗っているようです。この方法に限らず、工夫次第で無理なく始められるやり方は見つかるのではないでしょうか。

 長野県飯田市はさらに念を入れて、こんな条例を作っています。地域外の企業の活動の自由をかなり制限する内容で、よそから大企業を誘致する従来型の政策とは正反対ですけど、自分たちはこの環境を大切にするんだという覚悟が伝わってきて、外から見てすごく魅力的ですし、住民のみなさんも今きっと誇らしい気持ちではないでしょうか。

平成25年3月25日公布「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」

 私は、この誇らしい気持ちがないままでは、たとえ何らかのプロジェクトで多少人口が増えたり雇用が増えたりしたとしても「地域振興成功」とは言えないんじゃないかと思います。丸加高原での風力発電構想を、地元のみなさんが誇らしいと思えるかどうか。それがこの問題のポイントです。

 きょうは自分の願望も含めていろいろお話させてもらいましたが、これからみなさんがお考えを深めていかれる際のヒントになりましたら幸いです。ご静聴をありがとうございました。


2014年11月23日にウェブに掲載しました。(C) 2014 Hirata Tsuyoshi, All rights reserved.

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