2017/1/14

「これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関するラウンドテーブル」報告書(案)へのパブリック・コメント

平田剛士 フリーランス記者

公益社団法人 北海道アイヌ協会 御中

前略 貴協会ならびに日本人類学会・日本考古学協会のお取り組みに敬意を表します。以下、「報告書(案)」に対する意見を申し述べます。ご参考になれば幸いです。


P1 「その学史的背景を明らかにする」とありますが、それを受ける後段の「背景」記述はあまりに抽象的です。たとえば本報告書の付属資料として、1600体・500箱以上とされる収集遺骨、北海道大学だけに限っても500箱以上とされる収集副葬品それぞれを、いつ・どの機関の・だれが・どのように収集したのか、リストを掲げるなどして「明らかに」すべきです。

P2 「これらの所蔵資料については、……収奪や、盗掘のように……不正に収集された資料も少なくない」とありますが、やはり具体的なデータを掲載すべきです。

同 「アイヌから見て適切とは言えない取り扱い」とありますが、アイヌに限らず、だれがみても不適切だと思います。「アイヌから見て」は不要です。

同 「アイヌの墓の調査」とありますが、「収奪」された側はこれを「調査」とはみなさないでしょう。「墓の暴露」などと書き換えるのが妥当です。

同 「研究の本旨は……先住性を確認するため」とありますが、人類学・考古学的見地からの確認を待つまでもなく、アイヌの先住性(植民地化を被った現地住民であること)は明白です。もはや研究の目的にはなり得ないものを記述すべきではありません。

P4 「認めざるを得ない」との記述には、渋々認める、というニュアンスが含まれます。本報告書では違和感があります。「一部の研究は、アイヌへの社会的偏見を助長した。」などとすべきです。

同 「人類学においてはアイヌが先住民であるか否か……研究が進んだ」の記述は、あたかも「人類学がアイヌの先住民であることを証明した」といった誤った印象を与えます。削除すべきです。

同 「そのため……学術資料としての価値が大きく損なわれた」の記述で、「学術資料としての価値」は被害者からすればあくまで二次的な問題です。収集後の情報管理のずさんさに起因する最大の問題は、それが現在、遺骨・副葬品の各地への返還の障害になっていることです。第1にそのことを記述すべきです。

同 「深く反省し、今日社会的に批判される状況にあることをしっかりと受けとめるべき」は妥当な意志表明です。しかし、だとすれば、本報告書後段で語られる再発防止策に加え、少なくとも参加2学協会は、経緯解明・責任追及・被害者への謝罪・賠償・原状復元などのペナルティを自らに課す、との約束が必要です。

P7 条件Aに「概ね100 年以内に埋葬された遺骨や副葬品」とありますが、「アイヌにとって遺骨と副葬品に関する諸問題は、過去や現在という時代区分で分けて考えるものではない」(p3)の記述と矛盾します。また「遺族感情」を理由とするのであれば、「概ね埋葬から100年以内に『発掘』された遺骨や副葬品」とすべきです。

同 「Cの条件に触れる遺骨及び副葬品のうち……とみなされる場合には、限定的に研究を行う可能性も残される」の記述は、正常な研究に戻すために設けたせっかくの諸条件を無に帰すものです。文科省調査に基づけば、現在大学などに保管されている遺骨・副葬品の大半は条件Cに触れます。この条件に例外規定を設けてしまうと、大半の遺骨・副葬品を再度研究対象とする道を開くことになります。また、条件Cに触れる個々の遺骨および副葬品に対し、研究者側から材料として提供してほしいと希望があったさい、一体だれに許可権限があるのか、本報告書では検討された形跡がありません。規制緩和の要件として「アイヌも交えた検討と判断」と記述されていますが、ここでいう「アイヌ」とはだれのことでしょう? 本報告書が「研究の実施にあたって……則り」(p7)としている文科省・厚労省「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」は、研究対象者が死亡している場合には「代諾者」からのインフォームドコンセントが必要であると述べているものの、代諾者の資格を明示していません。この点をあいまいにしたままでは、今後も被害者は「研究」への不信感を募らせるばかりでしょう。例外は認めず、条件@〜Cに触れる遺骨・副葬品を再び研究材料にはしない、ときっぱり表明すべきです。

以上です。


参考リンク

公益社団法人 北海道アイヌ協会

「これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関するラウンドテーブル」報告書(案)